禺画像]
『「花のいのち」殺人事件』には巻頭にカラーグラビアがあります。
シャイム・スーティン作「狂女」(1920年)。
この絵が小説の中で重要な役割を果たすのですが、
林芙美子がこの絵を購入し、所蔵していたのは事実です。
没後、国立西洋美術館に寄贈されました。
国立西洋美術館の解説をお読み下さい。
[URL]
ここに「林泰氏より寄贈」とありますが、
林泰(たい)というのは芙美子が養子にしていた男の子です。
昭和34年、学習院中等部1年の時に汽車のデッキで転んで頭部を強打したため、気の毒にも若くして亡くなっています。
だから、「狂女」は芙美子が亡くなった昭和26年から、その34年までの間に寄贈されたものと思われます。
ふつう、小説の中に絵が登場しても、写真はつきません。
でも、読者の理解のためにはないよりはあった方がいい。
スーティンというあまりなじみのない作家の作品ですし。
そこで考えたのが、表紙にこの絵を使うことです。
それなら、小説でも全然おかしくない。
ところが、見事に美術館からは断られました。
美術書ならともかく、小説の表紙に絵を使うとそのことだけでその本の価値を高めてしまう可能性があるというようなことでした。
なるほど、と納得しましたが、後学のためにも、
絵に造詣が深く美術小説集『恋する手』も出版している
太田治子さんに事情を聞いてみました。
すると、どうやら作家によって違いがあって、
スーティンとユトリロは最も絵の写真を使わせてもらうのが難しい2人なのだそうだ。
このため、NHK「日曜美術館」でこの30年、スーティンはただの一度も紹介されていないという。
1976年から「日曜美術館」の初代アシスタントを3年間務めた太田さんが言うのだから間違いない。
それがスーティンの知名度が日本で低い一因にもなっているという。
(文中にも触れているように、本当はすごい画家なのだ)
太田さんへの電話を切ってから、ふと思った。
美術館からの回答には「表紙に絵を使うと…」とあった。
すると、もしかしたら、本の中でなら使えるのかも!?
だめもとで再度、西洋美術館にアタックしてみた。
すると、今度はOKが出たのである!!
こうして小説本には異例のカラーグラビア。
しかも、とても使用困難という貴重なスーティンのカラーグラビアが
本を飾ることになったのです。
西洋美術館さんよ、ありがとう!
そして、どうぞ、これを機会にスーティンのことを知ってください。
とても個性的な画家ですよ。
名古屋市のヤマザキマザック美術館には7点もあるようです。
(スーティン得意の吊るした肉の絵も!)
私もいつか見に行きたいと思っています。
セコメントをする